さまざまな歌手に歌われてきた『涙くんさよなら』。みつけた動画をいくつか。

石川ひとみ

『まちぶせ』が(私の中で)有名な石川ひとみの歌唱。耳心地のよい、すっと入ってくる歌声です。彼女の『涙くんさよなら』音源化は未確認。

川越美和

「92年」とサムネイル画像の裏ジャケットにみえますね。透き通ったクールでハイファイな音作りです。シンセが中核。川越美和さん、恥ずかしながら初めて認知いたしました。ユニークなアレンジなのですが歌のメロディやことばが生きて届いてきます。これがオリジナルと言われても信じてしまう。アカ抜けしていますが一般リスナー(非音楽マニア)にもまなざしを向けた感じのする好アレンジ。力加減のよい歌唱も好感です。(35歳で亡くなっています。今の私とほとんど同い年…)

和田弘とマヒナスターズ

童謡のようなアレンジメントのイントロののち、せりふが飛んでまいりました。「なみだく〜ん、さよなら〜」。男声のメインボーカルに、女声のコーラスもきこえます。合唱などのキャリアを思わせる発声法のコーラスです。ストリングスにフルートがオブリガード。ポコポコとミュートとスイープを効かせたエレキギターのクリーントーンのアルペジオ。ドラムスは終始リムショット。しっとりときかせるアプローチです。チーチチ……とトライアングルが愛らしくリズムにアクセント。

ジョニー・ティロットソン

オールディーズのようなサウンドです。日本語非ネイティブの発音がフックになっています。発音自体はさすが、非常に美しく、むしろネイティブには出せない妙味があります。英語版の軽妙さとこなれた感じが本懐でしょうか。非常に安心感があります。たまにかなり単語の音の数を詰め込むところがみられますが流暢に載せ切っています。この曲のヒットの立役者。

坂本九

坂本九がこの曲を最初に発表した歌手です。1965年のシングル曲。エネルギーが詰まった歌声。ワンセンテンスごとに花が咲き、爆発するエモーションを感じます。イントロの増3和音(E→Caug)など、和音づけが小洒落ています。ⅲ(音階の3番目の音)を低音位に頻繁にもちいて、シンプルなメロディに緊張感を与え、主和音への解決を際立たせています。ストリングス、ハープ、木琴が目立つ編曲。イントロ、間奏のハーモニカが哀愁を帯びています。特定の音域が鋭いハーモニカらしさある音色です。存在感ひかえめにフルートがオブリガード。間奏後、2コーラス目に入る直前のフィルインやエンディング付近で「いたんだ」と思いました。2コーラス目の直前でEメージャーから半音高いFメージャーへ転調。エレキギター・ベースやドラムスなどではなく管弦楽で聴かせる、ある時代の歌謡の世界を思わせる編成です。坂本九らのこの歌唱・演奏が世間に対する最初の音源発表のはずなのに、これより以前にオリジナルがあるかのような洗練や深まりを感じます。編曲:橋本光雄。Wikipediaでみるとあずさ欣平という声優・演出家の項に転送されますが同一人物なのでしょうか。多才です。

ジャニーズ

坂本九のリリース後、カバーした歌手の代表例がジャニーズ。1966年のシングル『泣いていたジェニー』のカップリング。同時期に多くの歌手が同じ曲を発売するのを競作と呼ぶようです。ジョニー・ティロットソン、坂本九、和田弘とマヒナスターズとリリース時期が近接しています。あの「ジャニーズ事務所」の最初のタレントで、以後のジャニーズタレント勢と特に区別するときは初代ジャニーズなどと呼ぶことがあるようです。ハーモニーボーカルを生かしてしっとりと歌い、管弦楽とギター・ベース・ドラムスなどのベーシックリズムを融合したアレンジメントだったようです。

浜口庫之助

作詞・作曲:浜口庫之助。『僕は泣いちっち』(歌:守屋 浩)という作もある彼、平易なことばで引っ掛かりのある印象的なフレーズをつくる才に秀でた人と見受けます。『人生いろいろ』(歌:島倉千代子、作詞:中山大三郎)、『愛のさざなみ』(歌:島倉千代子、作詞:なかにし礼)などの作曲も彼。作詞も作曲もできる草分けの人といってもいいのかもしれませんね。

作詞・作曲の浜口庫之助ご本人。ポロンポロンと流れるようなギターとやさしい鼻歌で次々にメロディを生んだのかもしれません。

感想など

恋をしたり、その恋が成就したりしたからこそ、「涙」と遠ざかる。幸福と充足感で満たされるほどに、それまで近くにいたはずの「涙」と離れる不安、胸のくるしさが強調されます。「涙」は苦痛を和らげてくれる欠かせない存在だということを教えてくれます。その「涙」を擬人化したようなことばづかいでやさしく語りかける、発想が効いた不朽の1曲。

青沼詩郎

『涙くんさよなら』を収録した坂本九の『坂本 九 ベスト~心の瞳』

ジャニーズの『涙くんさよなら』を収録した『青春歌謡 ベストヒット』

ご笑覧ください 拙演