映像

Monument Concert 1965

レギュラー・グリップのドラマーに寄った画面からはじまります。ダウンビート、強拍打ちです。バンドが円柱や半円の上に乗り、サングラスのロイ・オービソンがフロント。鍵盤弾きの奏者もロイ・オービソンの背後に。熱視線をおくる女性の画面が歌詞の「プリティ・ウーマン」のときに執拗なくらいにくり返されます。例のギターリフを弾きながら歌うロイ・オービソン。エンディングの8分音符2発をキメて聴衆の拍手です。動画タイトルに(Monument Concert 1965)とありますね。

Black & White Night Concert

ドラムスのキックがダスダスと明瞭です。多くのミュージシャンらとのコラボ(動画の概要欄に名前があります)。ボーカルハモリを彼らトップシンガーらがやっている。音にも厚みと熱気がありますね。「OK」を言ったあとの間奏が長い。エレキソロを複数でまわします。ミャウミャウコンコンとペラい感じの音が渋い。次第にソロはかけあいにかわっていきます。ロイ・オービソンを挟んだギタリストが交互に攻撃。みんなで弾く例のギターリフの厚みもバッチリです。こちらもエンディングの8分音符2発をキメ、「サンキュー」。盛り上がる聴衆。「Black & White Night Concert」とあります。演奏は1987年。ロイ・オービソンのライブアルバムになっており、1989年にリリースされています。

映画 プリティ・ウーマン

登場する女性はジュリア・ロバーツですね。さまざまな衣装や下着を着ては替え。ホテルやらお店やら通りやら、さまざまな都市の背景のもと盛装。数多のモブ男性の目を何かと引いているようです。主役の男性はリチャード・ギア。階段のシーンでは近い近い……そんなに近くでも話さなくても。こんな人生、遠いわぁ……という感じ。映画『Pretty Woman』をトリムしてつなげたイメージ映像といったところでしょうか。

曲について

Roy Orbison(ロイ・オービソン)のシングル(1964)。 映画『Pretty Woman』(1990)主題歌に用いられました。 作詞・作曲:Roy Orbison(ロイ・オービソン)、Bill Dees(ビル・ディーズ)。

Roy Orbison『Oh, Pretty Woman』を聴く

ざっくり聴く

左右に抜けるドラムスが臨場感あります。ギターは12弦ギターでしょうか。オクターブの音像です。右側でベースもユニゾンに加わります。左右にもエレキギターのリフがダブってある? 左でピアノが2拍目・3拍目ウラにストローク。

途中で転調、Ⅲ♭調になります。Aメージャ→Cメージャー調へ。4度ピッチで低音(コード)が動きます。マイナーコードがうまいこと入って響きに緩急をもたらします。ビター・スウィートな塩梅。

主題の「プリティ・ウーマン」と歌うところなど、ドアタマから重唱(ハモり)シーン多め。複数の声部のハーモニーで主人公らの絡む糸を想像させます。

エンディング付近のボーカルのホットに歪んだ臨場感。ずっとずっとⅤのコード(E)でひっぱって、最後の8分音符2発のAコードで解決。ホール・リバーブが長く深く余韻します。

エンディングは私なりに数えたら、ドミナントコードを24小節(含む変拍子)引っ張っている。すごい緊張の引き伸ばしです。クラシックならともかく、ポップソングでは初めて出会いました、この規模のドミナントには。

こまかくみる

メインリフ

ドラムスの4拍をドアタマで見送ったのち、12弦ギター?の上行音形。E7の分散和音です。主調のAメージャーのドミナント。おしりの「レ」が長い。6/4拍子と私はとらえました。これを2回聴かせると、4/4拍子になります。

音形はおしりをのばすのをやめ、8分音符で埋めるかたちになります。上行したら下行。「ミミソ♯シレファ♯ミレ」とナインスにあたる「ファ♯」まで上行するのがミソ(味噌。E,Gじゃないよ、F♯が9thだよ)。4/4拍子のところからリフにベースが加わりユニゾン。モチーフを大事に扱うとともに、大事なモチーフをみんなで囲って楽しむ雰囲気です。私も一緒に弾きたい。

コーラス

ヒラウタといいますか、歌い出しがイキナリ「コーラス」(サビ)っぽい感じなのでコーラスと呼んでしまいます。間違いなく、曲の「顔」の部分です。歌い出し1発目の“Pretty”がちょっとブルー・ノートっぽい。あまり意識して狙った感じではなく“Pretty”という語の発音において自然にそうなった風です。

5小節目に変拍子があるのがポイントです。2拍ぶん、足されている。

これ、もしも4/4のままいっちゃったらどうでしょう。“Pretty woman”と主題をコールしているのに、余韻もヘッタクレもありません。プリティ・ウーマンというよりかBusy womanみたいな感じになってしまうでしょう。この2拍があることで、ため息が出ちゃうような、見るだけでほっこりしちゃうような、時間がとろけちゃうような女性の愛らしさが表現できるのです。

6小節目以降のEコードのところではボーカルメロディにF#。Eコードにおけるナインスの音。ギターの奏でるメインリフにも含まれていましたね。はみ出し感がおしゃれ。

ロイ・オービソンのかけ声

コーラスの合間にはボーカルの小技。1度目は“Mercy”とかけ声。「なんとまぁ!」みたいな感じでしょうか。意味うんぬんというよりは感嘆詞。これ、私、フランス語で「ありがとう」と言っているのかと思いました。「メルシー(merci )」に聴こえたのです。似てません?(てかほとんど一緒じゃね?!……違いますかね)。まぁ、フランス語が出てくる意味がわからないですから勘違いなんですけど。

2回目のときには「Rrrrrrr…」? 巻き舌のような「ガロロロロロ……」みたいななんともいえない発音です。舌の先っぽだけがぶるぶるいっているのではなく、舌の奥のほうがガラガラとうがいの音をたてるみたいに震えている感じ。これ、私には真似しきれません。かっちょいい。なんの表現なんでしょうね。よくわからないけど遊びがあります。本編の歌唱がオトナの湿っぽさみたいなものがある。バランスをとって童心・茶目っ気を出したのでしょうか。

ブリッジ

つなぎ、変化の部分? 合っているかわかりませんが、ブリッジと呼んでみます。Bメロみたいなかんじのところです。Cメージャーに転調していますね。DmはAメージャー調の準固有和音。Aを主音にした秩序を保ったままでも登場させることのできる和音でもあります。これをCメージャーのⅡmに読みかえてG、Cの和音を登場させ転調をはっきりと打ち出します。

Dm→G→Cと4度進行を経て、4小節目にはAmを登場させます。Cメージャー調のⅥmで、Cメージャー調においてC(Ⅰ)以外にトニックの機能を果たす和音です。転調先においても、主調のAメージャーの主音からなる和音トニックの役割を果たすのは面白いですね。Ⅲ♭調への転調ですと、こういう不思議なことが起きます(Aメージャーから数えて短3度上の調なのでCメージャーをⅢ♭調と呼びました)。

Dm→G→C→Amの進行はCメージャー調での逆循環です(Dm→Gというドミナント項と、C→Amというトニック項の順番がひっくり返っているので逆循環と呼びます。トニック項がまずあって、そのあとにドミナント項がくるのを正位置としたみなし方ですね)。

転調からの回帰

Cメージャー調の逆循環のおしまい付近のライン、“Pretty woman, say you’ll stay with me~”。

最後の“me~”はCメージャー調の主音ですが、これをロングトーンし、次の小節で♯をつけて半音あげて「ド♯」とし、主調(元の調)のAメージャーの第3音(ⅲ)に化かしました……というか、こちら(Aメージャー)がそもそも主調なので変化を解いたと表現した方が正しいでしょうか。

第3音はその調の性格をはっきり打ち出します。根音は主音のA(ラ)。根音とメロディで主音と第3音を成した安定の配置です。転調からもとに戻るときは、ドミナントモーション……:戻りたい先の調のサブドミナント→ドミナントを顕して元の調の主和音に帰るのがやり方のひとつ(たとえばAメージャーに戻りたいなら、Bmなどを置いてからE7を経るとAに戻りやすい)ですが、ここでは前の調の主和音(C)→と新しい調(元の調)の主和音(A)を直接つないでしまいました。メロディが半音進行なのと、ベース音も短3度という自然かつ遠すぎない跳躍の旋律音程なので、するっと戻ったのです。絶妙な進行。

主調(Aメージャー)に戻ってからの進行はA→F♯m→Dm→E。度数であらわすとⅠ→Ⅵm→Ⅳm→Ⅴ。これを前部のトニック項(Ⅰ→Ⅵm)と後部のドミナント項(Ⅳm→Ⅴ)に分けてとらえてみましょう。するとどうでしょう、直前のCメージャー調で逆循環だったのがこちらでは循環進行になりました! 正ポジション? もともとの順番。

転調先と元の調で、逆循環→循環という対比構造が見つかるのです。匠なワザだと思います。

メインコーラスへの回帰

主調での循環進行(A→F♯m→Dm→E)を2回繰り返したのちは、メインリフに接続! これこれ! キタこれ! という帰結・納得があるのに、ドミナント和音(E7+ナインスのF#)のアルペジオなので緊張・期待がふくらむのです。リフを4回繰り返して、来ました! メイン・モチーフ(コーラス)の“Pretty woman”。さっきはCメージャー調のⅡm(Dm)の上で“Pretty woman”という語句を聴きましたが、こちらでは主和音上です。納得の納得。

延々ドミナント

帰結した主調のコーラス。3ライン目の“Pretty woman Don’t walk away,hey”のおしり付近(“walk away,”以降)でドミナント、Eのコードに突入しますがここからがスゴイ。「ざっくり聴く」の項目でもお話ししましたが、ずーーーーーーっとこのコードが続くのです。私が数えたら24小節間。

Eコードで引っ張る間を大きくふたつに分けると、前部の13小節間と後部の11小節間(14〜24小節目)でしょうか。14小節目で曲の冒頭の再現。6/4拍子になって、例のリフ(お尻伸ばし型)が顔をみせます(あるいはその直前、13小節目の4拍分も含めて再現としてもいいかもしれません)。

4/4拍子にもどって、歌詞をおよそ2ライン。“Is she walking back to me?” “Yeah, she’s walking back to me”とEコード上に乗せます。

延々ドミナントの大円団には主題の文句、“Oh, oh, pretty woman”。最後の最後の最後の“woman”の、たった8分音符2発で解決します。

“woman”という語が2音節であることにすら、深淵さを感じてしまいます。女性の持つXX染色体にまで思いが及びます。偶数なのです。

乱筆すぎるノートですが、伝えたいことはひとつ。この画像内のほとんどの部分がE(ドミナント)コードで延々と引っ張っている範囲なのです。

後記

高校生のとき、吉祥寺のヴィレッジヴァンガードをうろうろしていてなんとなく手に取り購入して帰った3枚組のジャズのアンソロジー。それに確か“Oh, Pretty Woman”が入っていたなと思って、いま現物を探して確かめたのですが勘違いでした(ジャズ……ではないよね、確かに)。でも確かに、同じくらいの時期に聴いていた何かのコンピに入っていて、すごく好きでかなり聴いていたんですよね、オー・プリティ・ウーマン。

映画『プリティ・ウーマン』に使われたのは90年代。映画の公開年(1990)は私は4歳児のハナタレですが、それから年を経ながら繰り返しテレビのロードショーで見かけて、音とイメージを刷り込まれた曲でもあります。

映画の内容は覚えていませんが、あらすじを検索してみると恋愛物語であると同時にコール・ガールの成長物語でもあるのかな。ガキの頃はコール・ガールがいかなるものかの機微を理解しえなかったので、改めて観てみたいとも思います。

曲のほうは改めて味わってみると、感心な仕掛けがぎょうさんしてありました。Ⅲ♭調との間の転調とか、循環or逆循環の4度反復とか、ドミナントの超拡大とか。ロイ・オービソンの音楽遺伝子にはクラシックが刷り込まれてるのかな。

ただの色恋ソングじゃないですよ、コレ。めっちゃ好きな曲になりました。

青沼詩郎

Roy Orbisonの『Oh, Pretty Woman』

映画『Pretty Woman』(1990)

ご笑覧ください 拙演