終りの季節の旧交
あるときふと“空耳アワー”を検索したらSNSのフィードが“空耳アワー”系の動画でいっぱいになってしまいました。それはそれで幸せ、楽しい楽しい“空耳アワー”で満たされまくる条件がととのったわけでもあるのですが、ニュートラルな自分でいようとするベクトルを侵害する傾向でもあるのではとの疑念が浮かぶのも一方です。ヤツらは利用者が検索したワードや、視聴を保持した時間などを参考に、そのユーザーが気に入りそう(気に入るなんて心のなかの機微まで知ってのことではないでしょうが)なほかのコンテンツを優先的に表示するアルゴリズムが敷かれているようです。YouTubeなど特に、過去に自分が閲覧したり検索したりしたチャンネルやそれらのチャンネルのコンテンツと内容の類似性がありそうなコンテンツばかりが出てくる傾向が強い気がして、もっと自分の視界の外側の気まぐれや偶然の混信を楽しみたいと思うときの私を満たしてくれません。そう、偶然の混信が私はもっとほしいのです。
Old Friends(Simon & Garfunkel)は “空耳アワー”的にいえば「坊さんの乱闘」という作品です。都市のビル、街路のヘアピンみたいな角度のきつい交差点の角地みたいな箇所のガードレール際で2〜3人の坊さん(法衣を着た人)がもみあっているシュールな映像とサイモン&ガーファンクルのカームな歌の落差が見事でした。
カームでメランコリックな曲。ⅣM7→ⅠM7のコードに対して、Eメージャースケールのⅲ→ⅶの音階音をあてたメロディを歌い出す冒頭(ソ♯→レ♯)。根音とは異なる音程をボーカルメロディに選ぶと感情にレイヤー、複雑さ、奥深さが出てきます。メジャーセブン(長7)の音など選べばなおさら。おんなじ「old friends」とのフレーズが曲中で数度出てくるときでも、いちいちあてはまる音階音、ボーカルのポジションが変わって行き、ほかにも細かい諸要素を抽出しても様相の変化に富んでいます。日本でいうところの「わびさび」の観念を不思議なくらい見事にとらえて思える彼らの楽曲の特徴は、日本で受け入れられる要因のひとつになっているかもしれません。
歌詞に出てくるbookendsは本棚をしきる支え。すなわち物事のはじまりとおわりの観念でしょうか。この『Old Friends』を収録したオリジナルアルバムの標題にもなっている単語を本曲に用いているあたり、アルバムのなかでも重要な1曲だと思えます。旧友同士とはすなわち、人生のどこかでいちタームをともにすごした人。公園のベンチに腰掛けた彼らのつまさきに、ふとニュースペーパーが風に飛ばされて舞い込んでくる。新聞紙は現在性、フロー(流れる最新情報)の象徴でしょう。「旧友」の観念と対立し、お互いの存在を際立てるモチーフです。
かれらがともに過ごしたのは若かりし日々だったかもしれないが、いまぼくたち(彼ら)は70歳にもなってしまって、またこの公園で同じ瞬間・場所を共有しているなんて奇妙な運命だね……季節は冬。人生を一年にたとえれば、老人たちの一刻は終りの季節に重なります。年を重ねることは恐怖であると同時に、尊いことであり、畏怖の対象です。この圧倒的わびさびと詩情に驚嘆します。わびさびや哀愁、悲哀は言語の壁を超越できるのを証明します。
おなじものをみても、時空や経験を経て観察するとべつのものに見える。解釈が変わる。曲の尺は短いですが、ホルン、チェロ、グロッケンなどアクセントとなってイマジネーションを広げる楽器が活躍し、サウンドスケープも豊かです。エンディングのヴァイオリンの長い音価の保続のさなか次曲に継ぎ目なくつながってしまう……組曲のような趣向をもったアルバムの前半~中盤に景色と思想の奥行きを与える傑作です。
Old Friends Simon & Garfunkel 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Paul Simon。Simon & Garfunkelのアルバム『Bookends』(1968)に収録。
Simon & Garfunkel Old Friends(アルバム『Bookends』収録)を聴く
感傷的で苦痛や悲しみをひとめぐりしたあとの凪いだ時間のような穏やかな歌唱が耽美です。中間部、ブリッジのあたりのSharing a park bench quietly?のボーカルの天国にふっと近づきつつ戻るみたいな高く儚い音程、声色の美しいこと。
しめしめと通夜がはじまるみたいに歌い出します。アコースティックギターとヴァイオリン族。冬の吐息が表現されたような近い音像のボーカル。
エンディングで次第に調和が乱れる。ヴァイオリン族のアルコがロングボーイングしたかと思えばキュッキュッキュっ……と心臓が動悸を起こすみたいに乱れる、あるいは定期的なリズムを刻みだす。old friendのリズムを反復再現するホルンはリズム形と音の上下は再現しますがわざと調和みたいな音程を選んで不穏な空気を演出します。チェロがもう理性をはずれて連想の暴走にふけるみたく独自の動きをしだす……かと思えばオケ全体であらためてold friendsのモチーフを反芻し理性と秩序を取り戻す。天にのぼっていくみたいにグロッケンがどこまでも梯子を空に向かって伸ばしていく。
次曲Bookends Themeでタタタ・タタタの三連の音形のアコギのリズム、モチーフ片を受け継ぎながら、最後の歌詞が唱えられ写真のなかにあなたは残る。圧巻です。トラック番号は変わっているけれどぜひ次曲Bookends Themeまで聴いてみてください。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ブックエンド (サイモン&ガーファンクルのアルバム)、Old Friends (Simon & Garfunkel song)
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『Old Friends』を収録したSimon & Garfunkelのアルバム『Bookends』(1968)