Fishmansは私にPolarisへの導入をくれた。Fishmansのメンバーだった柏原譲(ベース)がPolarisのメンバーでもあるからだ。
両者の音楽は私の中でとても、近い位置付けにある。それは柏原譲というメンバーがかぶっているからだという説明だけでは不足するように思う。それでいて、その不足を明かす知見が私には足りないかもしれない。
FishmansとPolarisにおいて、私が共通点を感じる部分を言葉にする試みにお付き合いいただきたい。
FishmansとPolarisに私が思うところ
・ふわふわと漂うような、浮遊感ある音像の印象。残響のつくりかたのせいだろうか。
・ボーカリストのトーンに「あそび」がある。これは「余裕」の意味の「あそび」。自由でのびのびとした印象を受けるし、力が抜けていて気持ちがいい。
・ベーシストはいわずもがな、メンバーがかぶっている。低いポジションにいながら引き締まっていてコシと輪郭ある音。ベースサウンドの鑑。和声と刺激しあうようなフレージングも魅力。
・際立つドラムス。Fishmansなら茂木欣一、Polarisなら元ドラマーだけど坂田学。スコンパカンとさばけた音色、タイトでもオープンでも軽やかなコントロール。熱量、密度。
以上がFishmansとPolarisの両方に私が感じる魅力を荒っぽく削り出した言葉。でもふたつのバンドを味わった私のリスニング体験はうすっぺらい。ライブ体験もない。語るにはあまりに貧弱なのは承知。音源だって網羅して聴取済みというのにも程遠い。だけども、このふたつのバンドの音楽に私は深く魅せられる。菌糸がのびたみたいに心に癒着している。
Polaris『深呼吸』
Polarisを思ったとき、『深呼吸』は最も早い段階で私の頭の中に立ち上がる曲のひとつ。
『深呼吸』MV
『深呼吸』(アルバム『Family』バージョン)
ピアノとコーラスに原田郁子(クラムボン)が参加。彼女の声が与える印象は大きい。サウンドにかけがえのない趣をもたらす。ビアノのグルーヴと声のトーンの両方でハナ(華)となる。
コード進行とベースフレーズ
|Ⅵm、Ⅱ7|Ⅳ、Ⅰ|を繰り返す平歌。
サビで|Ⅳ、Ⅲ7|Ⅵm、Ⅴ、Ⅰ|Ⅳ、Ⅴ|Ⅵm、Ⅴ、Ⅰ|というパターンになる。2,4小節目で、ⅥmからⅤへ向かってベースが半音進行する。こういったフレージングが低音の動線の解像度を上げ、上声の響きにも綾をもたらすと思う。私が彼らの曲を猛烈に好きなのは、こういう響きの複雑な絡み合い、織りなす模様のせいもあるのかもしれない。ベースのストロークのリズムについてみても、拍の頭に8分音符を連打したかと思えは拍頭の8分音符ひとつ抜いて休符を入れるなど、細かく引っ掛かりをつくっている。緊張と弛緩、浮遊と固定の両輪で曲が前に進んでいく。
私がFishmansとPolarisに猛烈に惹かれる理由はベースの柏原譲が共通していることだけが理由じゃない……という仮説を軽く念じつつ書き出してみたけれど、蓋をあけて言葉をならべてみるとどうやら私は柏原譲のベースにムチャクチャ惹かれているようだ。とりあえず、言葉にするのを試みたところ、陳述の分量の割合的にそうなってしまった。
もちろん他のパートも猛烈に好きだしベースだけで楽曲が成立するわけじゃない。ベースの魅力を存分に味わえるのはバンド全体、他のパートとの関係、機微あってこそ。いやホント全部好きなんですよ。どう言葉にしたものかわからない。自分の言葉が彼らの魅力を伝えるのに不足するもどかしさ。
後記
言葉にうまくできないんだけど猛烈に好きなバンドというのが私にはしばしばある。Polarisはその筆頭で、「筆」頭といいつつあまり書けずに(語れずに)いる(前にこのブログで『コスタリカ』という曲に触れたこともあるが)。そういう、「言葉にさせない」くらいが音楽における理想のようにも思う。彼らの音に、私は言葉で報いることができない。せめて、こちらも音楽で反応できたらいい。
彼らからの影響を指摘できるような発信も活躍も私には不足する。ここにたどり着いてこれを読んでくれたあなたやあなただって、私がどんな奴でどんな音楽をやっている人間か知らない場合が多いだろう(それを知ってもらうための努力も苦労も足りていないだろう)。Fishmans、Polarisといった素晴らしいバンドの音楽から確実に影響を受けたなら、私も少なくとも今より認知される程度に活躍しなくちゃ申し訳ない(「影響を受けた」だなんて口先だけだった、とならないためにも……)。
自分の話になってしまった。そういう、自分のまるはだかの心を照らす光のひとつが、たとえばPolarisの『深呼吸』という美しい曲なのです。
青沼詩郎
『深呼吸』(アルバムバージョン)を収録したPolarisのアルバム『Family』(2003)
『深呼吸』(シングル版か)を収録したPolarisのベストアルバム『音色』
(2006)
ご笑覧ください 拙演