
先日、公園で、犬の尻を見たんですよ。
飼い犬を散歩させている人が連れている犬だったんですけれど。
それで、犬の尻の穴とか、しっぽとかを見て、「tail」って単語を思ったんですね。
で、なんかそんな音韻が含まれてる曲あったなと思って思い出したのが、『Long Tall Sally』だったんですね。
「tail」じゃなくて「tall」ですけれどね。発音、似ているようで、完全に同じじゃないので「小違い」なんですけれど。
『Long Tall Sally』はリトル・リチャードの名曲ですし、ビートルズの演奏も有名です。
で、さらには、くるりファンの私はくるりの同名の別曲『Long Tall Sally』を思い出すわけです。
そう思って、昨日とかおとといとか、くるりやビートルズやリトル・リチャードを聴いて、くそつまんない半端な記事を書いちゃったんですけど、これではいけないなと思って。
今日はあらためて、くるりの『Long Tall Sally』に絞って聴き込んでみました。
私が注目したこと
この曲で、特に私が注視した紹介したい点がふたつ。
0:47頃〜の低音保続と同形反復コード
1:06頃〜の拍子とポリリズム
順番にいきます。
低音保続と同形反復コード
0:47頃〜
なんだろうこのコードの響きは。どうなってるんだろう。
すごい、狂った表現なようでいて、規則性を感じる。
この表現は、きっと論理的に説明できるはず。
いや、「説明」はオーバーかもしれないけれど、「しっくりくる」とこまで理解して感じることができるはず。
そう思って、再生を繰り返してがんばって聴き取ったら、やっぱりすごかった。
この曲の、おそらく主音と思っていい存在が、「ド」すなわちCです。
そのCを、ベースが鳴らし続け、ポジションを保ちます。低音保続です。部分的に、エフェクトがかかったリードギター(?)とユニゾンしてみせたりもします。
その低音上でのコード進行がすごいのです。
|B♭-F-A♭|E♭-G♭-D♭|F♭(E)|
続いて、
|C-G-B♭|F-A♭-E♭|G♭|
5度の関係を全音下げて繰り返すかたちです。
すごく、はっきりした規則があるのに、それでいてカオスな雰囲気が出ています。
4/4拍子なのですが、コードチェンジのタイミングが偽りの変拍子っぽいところもイイです。
7/8拍子とポリリズム
1:06あたりからは、ホントに拍子が変わります。
私は、7/8(はちぶんのなな)拍子と解釈しました。
ベースが1:13あたりから8分音符で「ド シ♭ ド ミ♭ ド ミ♭ シ♭」と、「7つ打ち」を明確にしています。
そこからすんごいのが、1:27頃〜です。
ここから、ベースは「ド シ♭ ド ミ♭ ド ミ♭ ド シ♭」となり、「8つ打ち」になります。
あえて4/4ではなく、8/8とします。
で、ドラムがよくわからない。なんだ? このスネアのタイミング。
聴き込むうちに、スネアの音色が、異なるものが混在していることに気付きます。
そう、ドラムがダブってあるのです。
確かに、手持ちの『NIKKI』CDブックレットを見ると、「Additional Drums」と記載されています。
「Additional Drums」の全容はわかりませんが、私の耳には、スネアとハイハットがダブってあるように聴こえます。特にハットは定位をメインのドラムのハットと分けて、左右に離されて定位されているようです。
気になって、引き込まれて、聴き込んでいくと、次第にパートが見えてきました。
拍子の解釈の持論
これは私の仮説です。
メインのドラムは、あくまで7/8拍子に解釈したまま演奏を続けているのです。
で、「Additional Drums」は、4分音符で「ウン、タン」を繰り返しているのではないでしょうか。この感じはほぼ、いわゆる4/4拍子のエイトビート「ドン・ツ・パ・ツ ドン・ツ・パ・ツ」的なニュアンスの大またぎバージョンです。「パ」が、スネア。実際の曲中では「ウン、タン」であり、「Additional Drums」は2/4とみるのもいいのでしょうけれど。
メインのドラムのスネアと、Additional Drumsのスネアが、ずれたり、同時に鳴ったりして、とてつもないカオスと、つかみどころのなさで私を吸い込みます。ポリリズムのブラックホールかと思いました。
ベースがわかりやすく8/8の刻みをする1:26頃〜1:55頃を、7/8拍子で感じれば、この部分の尺はきっかり16小節になります。この区間をちょうど2分割する1:40あたりで、シャーンとシンバルが鳴ります。このことからも、メインのドラムは7/8でとり続けている説を私は押します。
この説に落ち着きましたが、それまで、いろんな拍子の分け方を考えました。
7/4かなぁとか、[3/4+4/4]かなぁとか(前後を入れ替えて[4/4+3/4]かなぁとか)、8分割の感じ方(数え方)を尊重するなら8/8+6/8も気持ちいいなとか。そしたら10/8+4/8もいいぞと思ったし、約分すりゃ5/4+2/4だな・・・なんて、延々と数えながら聴きました。これは、ひょっとしたら究極の「かぞえうた」なんじゃないか?!
分析のプロセスは楽しかったし、興奮しました。
きっかり16小節できまりがいいし、1:06頃〜の7/8の流れがすでにあるので、持論を結ぶならやはり7/8拍子です。
『Superstar』のモチーフ
曲の末尾付近で、「レ〜ラ〜」というモチーフがあらわれます。
これはほかでもない、アルバム『NIKKI』に収録されていてシングル曲でもある『Superstar』のリフです。
このまま『Superstar』につなぐ曲順・編集もあっただろうに、次曲は『虹色の天使』。
『Superstar』につなぐ選択肢を承知で、あえてそれをしなかった曲順。果たしてどんな意図だったのでしょうか。
もちろん、これで『Superstar』につながなかったからこその『NIKKI』ですし、今回改めて聴いて惚れ直したアルバムです。今の私のバイオリズムと、なにかしらあるんだろうな。
それぞれの『Long Tall Sally』
超有名曲と同じ『Long Tall Sally』というタイトルで、ロック・ブルースのレジェンドを無視した曲なわけありません。
歌詞からもそれを、私は感じています。
まずは、リトル・リチャードの『Long Tall Sally』。この曲のどんな解釈が正解かわかりませんが、仮にこう解釈してみます。
(血縁か、単に地域の人かわかりませんが)あるおじさんと「サリー」さんの恋を、茶化すような、ネタにしてよろこんで盛り上がるような、そんな曲だと。
で、サリーさんは、歌詞中で「bald」という単語で形容されます。どうやら、はげているみたいです。
私は、ここでふと思ったのです。サリーさん、男なんじゃないかな、と。
もちろん、歌詞中では「she」です。実際、ネットなんかみてると、ふつうに女性が真実との情報にも行き当たります。
別に、真実はここではどうでもいいや。
リトル・リチャード少年が見た「おじさん」は、男性と恋していた。そう思うと、なんか、すごい面白いのです。
「ひゅー!」っていって(思って)、「茶化す」(こころのなかで)のが、なんだかよりリアルで残酷な少年性に思えてきます。(もちろん、私個人はどなたとどなたの恋愛も、茶化すつもりは毛頭ありません。)
で、ここで、くるりの『Long Tall Sally』に戻ります。
こちらでは、 “女の子には理解不能” という歌詞が出てきます。私はこのフレーズを、非常に重視します。
「男と男の恋愛」だから “女の子には理解不能” だというのも、なんかヘンです。私もそういいたいのではありません。
ただ単に、「異性愛」を前提にとらえたときとは “女の子には理解不能” という表現の響きが、違った味わいを帯びるのです。
そして、歌詞は “僕が大人になれば変わるかな” と結びます。
うーーん! なんて世界が広がるんだろう。
この曲、『NIKKI』中でも抜群に好きになりました。
曲順や歌詞について、参考をあたる
『Long Tall Sally』を味わって、くるり『NIKKI』の「曲順の意図」や歌詞のことが気になってきたところ。
うちの本棚に、確かくるり関連記事のある『ROKIN’ON JAPAN』があったはずと探してみると、なんと都合の良いことか、『NIKKI』のリリースにタイミングを合わせたインタビューの載った『ROKIN’ON JAPAN』2005年12月号を持っていました。過去の俺、グッジョブ。もちろん、くるりが載ってたから買ったんだった。
どれどれ…と見てみると、曲順は堀江博久さん(『NIKKI』でOrganやPianoを担当)が決めた、というような記述がありました。(ベースの佐藤征史さんに対する、山崎洋一郎さんによるインタビューの頁)
確かに、客観性を求めて、自分たちのアルバムの曲順を他者に決めてもらうのもひとつの手段といえます。堀江さんの決めた曲順にどんな意図があったのかまではわかりません。もちろん、メンバーがそれを肯定的にとらえているであろうことは、インタビュー記事全体を通してなんとなく暗示されているようにも思います。
歌詞のヒミツ?
また、岸田繁さんに対する宇野維正さんによるインタビューの中で、『Long Tall Sally』について触れた記述もありました。
男性どうしの性欲の話や異性についての話、その生産性のなさや楽しさについて前置きした上で、パッと出てきた詞が “女の子には理解不能” だった、というような内容でした。
なるほど・・・私の予想とは全然違った・・・かもしれません(笑)
ですが、解釈は、鑑賞の楽しみの一部ですから。私の解釈は、私にとっての真実でいいのです。
それにしても、インタビュー記事からは、今日の音楽が築かれるまでの先人に対する岸田さんの尊重の姿勢が感じられました。
ですので、くるりの『Long Tall Sally』に、リトル・リチャード『Long Tall Sally』あるいはビートルズほかの演奏による同曲に対しての、岸田さんなりの、くるりなりの解釈やアプローチが込められていないわけがありません!
くるりは、音楽の世界を引き出して私に提示してくれる存在でもあるのです。だから、好きなんだろうな。
青沼詩郎
【参考】
くるり『NIKKI』CDブックレット
『ROCKIN’ON JAPAN (VOL.288)』2005年 12月号 36〜65頁
【リンク】
くるり公式サイト
リトル・リチャードの『Long Tall Sally』