青い三角定規が歌い、1972年にシングルリリースした『太陽がくれた季節』。

いずみたくのメロディの魅力

私はいずみたく作品のすっかりファンです。私が書いているこのブログサイトの虫めがねマークのところに“いずみたく”と入れて検索することでヒットする関連記事も増えつつあります。手のひらを太陽に』『見上げてごらん夜の星を』『ゲゲゲの鬼太郎』『いい湯だな』『恋の季節全部いずみたく作品です。歌本をぱらぱらめくっていていずみたくの名前を見つけたり、ネットで検索していて知っている曲名に出会ったと思ったらそれもいずみたくの作だとわかったりしたときには「これもかぁ!」と異常な興奮を覚えるほどになってしまいました。それほどに私の世界はそこら中がいずみたくなのです。

いずみたく作品の、何が私はそんなに好きなんだろう。その謎を明かす要因かわかりませんが、思うことがあります。いずみたく作品の歌メロディを譜面に起こすと(あるいは出版されている譜面を見ると)見た目がきれいなのです。なんで「きれい」と思うのでしょうか。

・リズム形の反復

2〜4小節単位くらいのまとまりで、旋律のリズム形が同じものが反復してあらわれると、私は「きれい」と思うことがあるようです。ある形の繰り返しに「秩序」を感じるからなのかもしれません。

・モチーフの練成、全体の構成

一連の旋律をばらばらに小さくしていくと、モチーフになります。モチーフが組み合わさってすべての旋律ができていると理解してください。そのモチーフの選び方、変化のさせかた、組み合わせ方が曲の内容を決めます。そのあたりのセンスが、妙に私の心に響くようなのです。

まったくちがうモチーフをやたらめったら出されても、「登場人物が多すぎて覚えきれないし誰に感情移入していいかもわからない」状態になってしまうと思います。ですが、ある共通の性格をもったモチーフが再登場すると、「あ、こいつはあのときあんなことを言ったりこんな行動をとっていたやつだ。また出てきたんだな」と、私はストーリーの前後関係を理解したり、物語に入り込むきっかけ・手がかりを得ることができます。いずみたく作品は、その采配がうまいのだと思います。登場人物の性格づけが磨かれていて、その魅力が発揮される構成や流れがあるのです。抽象的にいうとそういう感じ。

たとえば『太陽がくれた季節』でいいますと、Aメロ君は 何を今 見つめているのと、それに続く若い悲しみに 濡れたひとみではリズム形がまったく同じです。約4小節単位のモチーフを1〜4、5〜8小節目で反復しているのです。次いでBメロ逃げてゆく 白い鳩 それとも愛が入ったのち、またAメロ同様の4小節のモチーフが帰って来ます。ところが今度の反復はそこまでで、ワンコーラスの最後にはそれまでとは違う旋律があらわれます。ですがこれも全くの異邦人(ヨソ者)ではなく、AメロとBメロを配偶して生み出したような、それまでに登場しているモチーフをより細かくして組み合わせて直しつつ、ちょっとだけそれまでにないパターンも含ませた風のモチーフになっているのです。

このように、アイデンティティ(この曲を独自の存在と認識するための特徴)を確かに持たせた上で、反復を含めて変化や多様性を出して印象づけているのです。まるで、群像劇(多様な性格を持った人物たちが織りなす物語)。他曲の例をここでていねいに見ることは割愛しますが、おそらく他のいずみたく作品にもこうした特徴、魅力の秘密が見出せるはずです。これが私がいずみたく作品を好きな理由! 今日の私にできる筆舌を尽くしました…。

山川啓介=井出隆夫

太陽がくれた季節』の作詞者:山川啓介…「初めて知る人かな?」と思いつつ検索してみると、すでにその作に触れていました。『北風小僧の寒太郎』です。こちらの作詞者名は井出隆夫ですが、これは山川啓介の本名です。山川が筆名なのですね。筆名と本名の使い分けの基準は私にはわかりませんが、低年齢向け作品に本名の井出名義が多いそう。『北風小僧の寒太郎』のおかげで私が先に認知したのは井出名義でしたが、一般向けの歌謡曲では山川名義が多いようです。私が名を知る多くの作曲家と組み、気になる作品をたくさん残していて、数珠繋ぎに楽しみが広がります。ちなみに『北風小僧の寒太郎』の作曲者の福田和禾子は、いずみたくに師事したことがあるそうです。

音価と核心の単語

作詞と作曲が相まって印象付けていて、特にこれはと思う部分を紹介します。(1番ならば)“逃げてゆく”で始まるBメロの折り返しを結ぶフレーズ。

それとも愛1番)

別れた夢2番)

太陽がくれた季節3番)

歌い出しのAメロにたいしてBメロは変化。劇的な部分です。その結びに、体言止め(名詞で終わる)で“愛”“夢”“季節”と、抽象的だけれど曲想を決める重要な単語を用いています。しかもここで、曲中で最も大きい音価を充てています(最も長く伸ばす音を用いています)。音が長いということは、それだけその部分の表現に時間を費やしているということです。それだけ重視すべき対象(主題やモチーフ)がそこにあると解釈できます。

この長く伸ばすボーカルに重なって、曲に勇壮な印象を与えている重要な要素、ブラスパートのキメが轟きます。♪パパパパーパーパー…というフレーズ。シンコペーション(移勢)のリズムと、sus4(サスフォー)というぶつかりのあるコードの響きのからくりが効いています。ここが曲中最も熱量高く盛り上がる場面ではないでしょうか。言葉と音楽が引き立て合う妙技を堪能できるのがまさに『太陽がくれた季節』。3コーラス目で歌われる主題のフレーズ“太陽がくれた奇跡”のみ、区切れの位置のあてはめ方がイレギュラーになっているのも見過ごせません。

青沼詩郎

日本コロムビア>青い三角定規

『太陽がくれた季節』を収録した青い三角定規のアルバム『太陽がくれた季節/素足の世代』(1972)

ご笑覧ください 拙演