ただその人になれるのみ

曲が短くてGSっぽくて良いなと思ったタートルズ。アルバムをかけ流して聴いてみるとハープシコードの音色を取り入れた曲などもあり案外サウンドのアプローチが幅広く面白いアルバムだと思いました。『悲しきベイブ』の邦題もついたボブ・ディランによる原曲をカバーしたのがタートルズでした。

コーラスの「No No No」……のタートルズのボーカルのガナり方が感情ムキ出しに感じられて高揚があります。あくまで聴くほうがそう感じるというだけで、ボーカルの技巧によるもの。上手いなと思います。

なんでも君の思うとおり、望む通りになるパートナーは僕じゃないよ……と、胸にグンとくるものがあります。Aセクションからコーラスにかけてのうずうず(うじうじ?)したマイナーコードの連用がコーラスに入っての「No No No」とのメロディの高揚を劇的に引き立てます。美メロで、フォークとしてもGSやガレージロックとしての味付けも許容する懐の深い美曲だと思います。「ぼくの窓から出てってくれ」……去るもの追わず来るもの拒まず的な、ボブ・ディランらしい無情感も覚えます。物事のテクスチャをとらえつつもその向こう側の核心を主題とし、私的な鋭いピントの絞りとともに普遍的な大衆歌としての魂の共震を実現する稀代の作家の名を欲しいままにするレジェンド、ボブ・ディランに頭が下がります。

It Ain’t Me Babe Bob Dylan 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Bob Dylan。Bob Dylanのアルバム『Another Side of Bob Dylan』(1964)に収録。The Turtlesのカバー(1965)がある。

Bob Dylan It Ain’t Me Babeを聴く

アコギの弦の弾き分けでベースラインとコードの響きを1本のギターで表現。プリング・オフを交えて細かく表情の解像度を上げていきます。すこし2度くらいでぶつかった濁した響きを容認し世間の風当たりの強さを無言で嘆く。歌が出て、入っての境界がきっぱりしているし音程の梯子もキリっとしている。彼の歌唱力の高さに驚嘆します。張り上げた時の声の唯一無二の質感も千金のブルーズです。ギター1本、のどぶえひとつにハーモニカ1本、からだひとつで万感の風が吹き荒ぶ孤高の詩人。本アルバムの最後を本曲で締めています。

The Turtles It Ain’t Me Babe(Stereo)を聴く

うっかりステレオを選んで聴いたのをわずかに後悔。グッバイ定位(泣別れ定位)がものすごい。ボーカル群は左に全振り。楽器群は右に全振りです。ベースが効いているなんて次元を超えて私の右耳にポケモンのカビゴンより重くのしかかってきます。そんなベースが暴威をふるう右定位をどこ吹く風ぞといわんばかりに、さみしげに清涼な声でリードボーカルがAセクションを演じます。ひゅ〜ひゅーとさみしい風が肌を冷やす歌唱が印象的なAセクションを打ち破り、激情のコーラスの歌唱がエモーショナルです。ハーモニーのボーカル群はそんな熱量にそよ風を送り続ける温度感で、複数の人格やキャストの性格の違いが同居しているところがバンドとしての面白さ。

右定位ではかろやかでちょっとハリー・ベラフォンテの音楽みたいな極楽感あるストラミングのギターがリズムをつくり、ゆらめきの強いエレキギターの音色がばらんとズラしたタイミングで撫でるようなピッキングのアルペジオで彩を加えます。チリリとタンバリンも輝きのピークを強調し、ボディの接合を図るドラムスのサウンドはお出汁のような役割。これはモノで聴いたほうがひとつのお茶碗への収まりの美を堪能できるかもしれません。

青沼詩郎

参考Wikipedia>It Ain’t Me Babe (album)、悲しきベイブ、アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン、タートルズ (アメリカのバンド)

参考歌詞サイト Genius>It Ain’t Me Babe

The Official Bob Dylan Siteへのリンク

『It Ain’t Me Babe』を収録した『Another Side Of Bob Dylan』(1964)

『It Ain’t Me Babe』を収録したThe Turtlesの『It Ain’t Me Babe』(1965)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『It Ain’t Me Babe(Bob Dylanの曲)諦念の「僕じゃない」【ピアノ弾き語り・寸評つき】』)