あちこちにある扉。

細野晴臣 ラモナを聴く

編曲:細野晴臣。

聴く者を楽園に連れて行ってしまう細野さんマジックに罹ってしまいました。おそろしや。

いろんな楽器の音がいろんな方向から聴こえてきます。

メインのナイロン系ギターは中央付近で根音と和音を「ブン・チャッ・チャ」的なパターンでフィンガーピッキングするものでしょう、歌いながら弾くパートといってよさそう。

ちょっと右寄りかな?くらいの位置には、マンドリンの類を思わせる軽やかな撥弦楽器のトレモロ奏法が異国の路地の雰囲気を連れてきます。ちょっとアジアあたりの感じですかね、個人の感じるところとしては。マンドリンですと複弦でスティール弦の印象を持っているのですが、複弦でなく、かつナイロンかガットなどのようなポロポロした優しい音色に感じます。いったいなんの楽器なのでしょう。マンドリンでも、弦の種類を張り替えればこういう音も出せるのでしょうか。

撥弦楽器はまだいて、左寄り、あるいは比重を左に置きつつ左右に定位をいっぱい広げるみたいに感じるナイロン系のセカンドギターのオブリガードトラックがいるようです。これがまた神秘的で極上の音を奏でます。

アコーディオンの音がまた異国の路地を連れてくるのですが、勝手ながらマンドリンが東〜アジアならこちらは西欧のイメージです。わかりません、アルゼンチンとかそちらのほうかもしれないし。

アコーディオンっぽい音が、基本の伴奏は右寄りから聴こえるように思うのですが、リードするときの高めの音域が左のほうに聴こえるように感じるのが不思議です。複数のマイクでポイントをずらして収録して、定位を振って音像に揺らぎをあえてつくっているのしょうか。テイクを分けて、定位も分けて振ったみたいにも思えるのに完璧にひとつづきの演奏としてつながっているようにも感じるので魅入ってしまいます。音を伸ばしたり、小さく嘆くようにフッと短く切って和声を添えたりと、富んだニュアンスが絶好です。

細野さんの声の存在感がオケと見事にはまっています。非常に存在感があります。サウンドアンドレコーディングという雑誌を好んで読んでおりますと、細野さんは、狭めの帯域で収録できるマイクをあえて選ぶことがあるようにうかがえます。たとえば今回のこの『ラモナ』も、細野さんの声にとって適切なポジション(帯域)を映してくれる必ずしもフルレンジでフルフラットな性質でないマイクを効果的に使われたのかなと想像します。それぞれのパートとボーカルが、自己主張を押し付けないのに、すべてがちゃんと聴こえて、気持ちよくなっている。もう理想であり楽園じゃないですか。

Dolores Del Rio Ramonaを聴く

作詞・作曲:Mabel Wayne、L.Wolfe Gilbert。Dolores Del Rioが歌唱、映画『Ramona』(1928)に用いられた。

映画『Ramona』のために書かれた楽曲であり、出演し、かつ歌唱したのがDolores Del Rioであるようです。“silent adventure film-romance”だというので、無声の映像に別撮りの音声を付加した映画ということでしょうか。

チリチリとノイズの音が大きい。LPレコード登場以前ですね。SPレコードとかなのでしょうか。ピアノがチャランと鳴り、アルコのベースがやさしく支えます。かろやかに空をすべっていくような声楽的な発声です。

先項でふれた細野晴臣さんは独自の日本語で歌っています。英語の歌唱で、かつもう少し私が身近に感じやすそうな模範演奏はないか……と少しサブスクを巡回してみますとフランク永井さんが見つかりました。

フランク永井 ラモーナを聴く

左右それぞれからリッチにストリングスが福音を散らし、合唱も入ります。空をすべり、川を流れる美空ひばりがあれば、地となり山をなすのがフランク永井さんとでもいってみたくなる貫禄と存在感です。

音がすこぶる良いのでヴェテランとしてのキャリアを行く頃の時期の録音でしょうか。手元に資料がなくオリジナルレコーディング年は私には不明。没後に発売されたコンピに収録されています。

音程もリズムも勘所が抜群で、楽曲の骨子や言葉をなるべく正しく理解するために参照したい歌唱。それを上質なものとして届けてくれるオケの演奏です。

Gene Austin Ramonaを聴く

オリジナル歌手として挙げるならおそらくDolores Del Rioということになるのでしょうが、同じ1928年にGene Austinがシングルとして出し、大変売れた……17週チャートインを続けミリオンセールスにも達したというようなことが英語Wikipediaからうかがえます。

なるほど、非常に柔和で絹のように滑らかで心地良い歌唱、サウンドです。Dolores Del Rioと同じ年代で、ノイズも同様にきつくはあるのですが、不思議と耳の衛生によい。Dolores Del Rioが声楽的で、Gene Austinがポップス(大衆歌手)的……とまではいいませんし、大衆音楽にもクラシカルな声楽曲にも表現の可能性は平等にあると思うのですが、楽曲のやわらかでゆったりしたロマンチックな雰囲気とGene Austinの柔和な声がよく調和しています。

ワンコーラス歌い間奏になるとちょっと舞踊音楽のようになります。西洋音楽の変遷の歴史で勉強するような音楽スタイルのひとつを思い出させます。

大衆に受け入れられるのもわかる気がします。SPのシングルとかって、庶民が気軽に手に入れて楽しめるような代物だったのでしょうか。当時の空気感や価値観を知れるものなら知りたいですね。

日本で生まれた私に、1920年代などの海外の音楽、それも映画に用いられた音楽などへの入り口をふんだんにくれるのが細野晴臣さんでもあります。深い深い文脈です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Ramona (1928 song)

参考Wikipedia>Ramona (1928 film)

参考Wikipedia>HoSoNoVa

細野晴臣 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>ラモーナ

参考歌詞サイト 歌ネット>ラモナ

『ラモナ』を収録した細野晴臣のアルバム『HoSoNoVa』(2011)

『ラモーナ』を収録した『フランク、ジャズを歌う』(2009)

Dolores Del Rio『Ramona』を収録した『Vintage Hollywood Classics, Vol. 5: Leading Ladies & Partner (Recordings 1928-1940)』(配信、2013)

Gene Austin『Ramona』を収録した『My Blue Heaven (Original Recordings 1927 – 1934)』(配信、2013)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Ramona ラモーナ(Dolores Del Rioの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)