あらすじ カーペンターズのレパートリーを提供した作者コンビ
サブスクの検索やランダム再生で気になった曲をどんどんひとつのプレイリストにほうり込んでいくと、曲数は膨れ上がって古い日時に追加した曲が埋もれていきます。そんなふうにして7000曲を越えてしまっているプレイリストが私の使っているサブスクに入れてあります。
どんな曲を追加してもいちいち忘れるので、プレイリストの中にあって、まだ自分で歌ってみたことのない曲で、なおかつ複数回思い出す機会のあったものをメモ帳にリスティングし直すなんてこともしばしばあります。
そんなメモ帳の内容も古い日時にリストしたものはどんどん埋もれていくので、古いところまで辿っていって、この曲をメモした時にどんなきっかけでその曲を意識したんだっけな、なんていういきさつももはや覚えていないわけですが、実はそれこそがこの私の記録行動のミソなのでしょう。
「この曲、なんだっけ」……と思ってとりあえず聴いてみる。すると、その時に自分にとってフックになる意外な感動があったりするものです。そんなふうにして思い出す(出会い直す、あるいは本当の意味でのちゃんとした出会いをそのとき初めて得られる)こともしばしば。
たとえば私にとってポール・ウィリアムズの楽曲『サムデイ・マン』もそんなふうにして、最近認識を改め直したひとつです。
この楽曲の作家はポール・ウィリアムズとロジャー・ニコルズ。作詞を前者、作曲を後者と役割を分けて楽曲を書き上げるコンビです。どんなワーク(作歴)に満ちた作家かと思えば、カーペンターズへの提供曲がたくさんあるのですね。『雨の日と月曜日は』『レインボウ・コネクション』など私の脳内に再生される数多のカーペンターズレパートリーのうち複数も、この作家2人による作品だと知り、やはりいまこのタイミングで出会い直せてよかったなと思うのです。
音楽を長く深く多様に聴くほどに、いろんな回路がつながるのですね。リスナーのなかでのこじつけや関連付けが広がるほどに、音楽鑑賞はなおいっそう面白くなります。
Someday Man Paul Williams 曲の名義、発表の概要
作詞:Paul Williams、 作曲:Roger Nichols。Paul Williamsのアルバム『Someday Man』(1970)に収録。前年1969年にThe Monkeesがシングル『 Listen to the Band』B 面に収録。
Paul Williams Someday Man(アルバム『Someday Man』収録)を聴く
さわやかで自然な流れで豊かな景観の展開のマジカツ・ツアーに連れて行かれるような爽快感があります。これは純然たる音楽の素養のある職業作家筋の作品に思えるのです。日本でいったらたとえば筒美京平かもしれませんし、日本にこだわらなければフランシス・レイかもしれませんし……とにかくそういう、音楽の「慣性」や機能和声の機微を把握しているから導ける音楽的なフックや音楽語彙上のウィットを感じるのです。ここでこんな語彙が来るとは!という驚きや意外性を、音楽の響きや緩急でやってみせている。
調性がコロコロ変わるんです。Aメージャーの和音ではじまりますがすぐに上声が全音あがるのでコードでいえばAとB/Aのコードを繰り返しているみたいなイントロのパターン。結局これはEメージャー調で始まってると解釈できるのかなと気づくのはブリッジの部分にさしかかってからです。本題に入る前の序文にフックが効いている、みたいな音楽語彙に思えます。
そしてコーラスは意外にもA♭キーで突入。おまけにビートも奇数分割系に。さっきまで山だったのに、トンネルを抜けたら海だったみたいな感じです。祝福するように複数のバックグラウンドボーカルの「Ah」系コーラスが降り注ぎ陽光のようです。
コーラスが済むと今度はGメージャー調のⅠとⅣを頻繁にスイッチするような展開に変わる。でなんだかんだ冒頭の展開に戻って2番のイントロとヴァースに戻る。しかし2番のコーラスを経てこのGメージャーの動きをやったあと、最後はイントロ・ヴァースの展開の再現をしないので、それまではA♭で提示していたコーラスのパターンが、実は最後のコーラスはしれっとそれまでのコーラスのA♭キーより半音上がったキーのナチュラルAメージャ調になっている。しかし、流れはごく自然なのです。ビートもキー(調性)も病的なくらいにコロコロ変わるのに、ハナシの組み立てが上手いから全然病的じゃない。ふしろ健全でフレッシュな印象をうけるくらいです。わかった! という腑に落ちた気にさせるのに、結局あれはなんだったのだろう? と自分のなかががらんどうになっているのに気づく。それで、また聴き直す。そんな引力と、忘れさせる清涼感・流動性の両方を備えています。なんだかちょっとラヴィン・スプーンフルの『Do You Believe In Magic?』なんて曲を思い出しもするのですが。
グリグリとゲイン感の気持ち良いベースが左側にひらき、ぼつぼつと衝突するドラムが右に。
ピアノが和声とリズムを鼓舞し、ストリングスやブラスや声のトラックが天使のはしご(雲間から挿す太陽光)のように地上と雲上をつなぐ。ここはどこかで、いつかなんだろうか、Someday Man。
このレパートリ、ポール・ウィリアムズが自身のアルバムで発表する前年の1969年に、モンキーズのシングルのB面に先に使われています。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ポール・ウィリアムズ (シンガーソングライター)、ロジャー・ニコルズ
ポール・ウィリアムズ ワーナーミュージックサイトへのリンク 彼が受けるも不合格となったというオーディション『モンキーズ・ショー』がモンキーズとの関わりのきっかけとなったのかもしれません。そのモンキーズがこの『Someday Man』を歌うことになるわけです。
『Someday Man』を収録したPaul Williamsのアルバム『Someday Man』(1970)