まえがき
私は1986年生まれなので、1980年代の中期〜後期のヒット曲が意外と穴(ちゃんと聴いてきていない)だというのが私個人のあるあるなのです。
ですが、これくらいの年代のヒット曲というのもまた飽くことなくあふれるように存在します。
ラジオなど聴いているとたとえばa-haの『Take On Me』のエアプレイに出会うことは現代でもさもありなん。そうしたヒット曲をのせた楽曲をコンピにするなどいう音楽事業者の再生産行為もあとをたたないでしょう。
Take On Me a-ha 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Morten Harket、Paul Waaktaar、Magne Furuholmen。a-haのシングル(1984)、アルバム『Hunting High and Low』(1985)に収録。
a-ha Take On Me(アルバム『Hunting High and Low』収録)を聴く
シンセの同音連打と、裏拍をふんだんに織り交ぜたリフレインの音色、モチーフの存在感が圧倒的です。華やかな倍音感、しかし音の切れ、減衰もタイトなのでこうしたリズムの間隔のせまいモチーフやテンポのなかでもはっきりとした音形の輪郭の提示に成功しています。
このタイトな音色のシンセに、うしろではホワーと白い霧が漂うような音色の和声の支えがあります。
シンセベースの音色。ドラムはリン・ドラムというドラムマシンの名器だそう。強いビート。キックが素早く8分割でドドドッ!と強調するリズム形を随所に入れアクセントします。ただでさえアクセントの強いズドンと存在感がある音なのに。サビでは4つ打ちの押し出すビートに、ドドドッと8分割を突っ込む音形を混交させます。また、途中で一瞬ハーフテンポのリズムパターンを4小節程度はさんだかと思えばまたすぐに元の快活なリズムの密度を取り戻す。リズム面での緩急の付け方の工夫が細かいです。
圧倒的なボーカルは下のAの音程から直上の上の上のEまで、2オクターブと完全5度に渡る音域を使用します。大気圏突破です。ジャンボジェットも到達できません。
くだんのシンセのリフが鳴っているときも、補佐のシンセが別で鳴っています。ベースもドラムもシンセ的な音色ですし、生声以外ほとんどシンセ成分でできている印象。ギターがないですね。a-haのメンバーさんはギターを扱うメンバーがいるようですがこの曲ではシンセに振り切ったのでしょうか。
バンドといいつつも、ギターもなく(私が気づかないだけで入っている?)、生ドラムもない。これはバンドなのか?! でもサウンドはあくまでニューウェーブ・バンドのそれであり、バンドといわれてなんの疑いもなく聴けるわけです。ふしぎな観念だなとあらためてバンドの定義の多様さを思うとともに名曲に唸る私。
青沼詩郎
『Take On Me』を収録したa-haのアルバム『Hunting High and Low』(1985)