9月20日にオンラインでおこなわれた京都音楽博覧会2020。
くるりによるこの催し、前半は岸田繁楽団とゲスト・シンガー。後半はくるりライブで構成。
ゲストの個性も堪能したし、京都音博らしい「世界」を意識した選曲意図も感じた。
くるりの曲も、知っていたものでも見直すものが多くあった。
自分がどんなときにどんな状況でその曲にふれるかによって、感じ方がまったくちがう。
ライブで一期一会の演奏ならなおさらだ。音博2020は収録しておいたライブ演奏の映像を予定時刻に配信して、それ以降一週間はプレイバックが何度でもできるというものだった。完全な「生」のライブではなく収録だけれど、期間限定のプレイバック可で、この催しのために特別に演奏したものだから、「生」と「収録」のあいだ、「半生」くらいかなぁなんて思った。
この記事では京都音博2020のセットリストの中で印象的だった『東京』について少し。
『東京』にみる、くるりの音楽への目線
『東京』はくるりのメジャーデビューシングル(1998)。くるりのメジャーファーストアルバム『さよならストレンジャー』(1999)にも収録されて、『ベスト オブ くるり -TOWER OF MUSIC LOVER-』(2006)にも収録された。
シングル『東京』、アルバム『さよならストレンジャー』は佐久間正英プロデュース。私が生まれて初めて買ったアルバムはJUDY AND MARY『POP LIFE』だけれど、この作品のプロデューサーも佐久間正英だった。
『東京』を聴くと、上京してきた彼らの姿を想像する。井の頭公園とか新宿とか、私も知っている風景を彼らが歩く姿を想像する。東京での音楽活動は、人との関わりは、毎日の生活は、どんなだったろう。歌詞に描かれたワンシーンのように、親密な(会う頻度が多かれ少なかれ)、心に浮かんだ誰かに電話したんだろうか。それがこの曲の核になったんだろうか。
真実かどうかともかく、曲のできたいきさつのようなものがWikipediaにのっていた。アンアーバーというアーティストの曲を聴いて受けた影響がこの曲が生まれるきっかけになったのだという。
こちらのアーティストがそれか。英語で検索すると別の海外のバンドも出てくるから迷った。
ちょっと型くずれしたようなコードのセンスが独特。力みのない左右のボーカルが歌詞をまっすぐに伝える。初期のくるりに通ずるものを感じるのはこのへんの特徴のせいか。純朴で明晰なのにクセがすごい。「いなたい」かんじもたまらない。曲を書いてしまうほどの影響をミュージシャンに与えるのもなんかわかる気がする。あと私はゆらゆら帝国も思い出す。
くるり『東京』、広く知られている音楽はメジャーデビュー時のバージョンだろう。
メジャー版とは異なるバージョンの『東京』を収録した、くるりの『もしもし』というインディー盤のファーストアルバムがあって、昔、バンドをやっている友達に音源をシェアしてもらったんだけれど、壊れてしまった古いパソコンとともにデータを失った。あれ、今聴きたいな〜と思ったらYouTubeにそちらバージョンの『東京』をみつけてしまった。
(シェアしていいやつかわからんのでご興味ありましたらご自身で探してみてください)
イントロのクセモノ感がすごい。くるりらしいと私はおもう。シューゲイザー風? メジャーのディレクションがあったかどうか、それがいかなるものだったのか知らないけれど、当時のくるりを「野放し」(失礼しました)にしたらこういうヘンテコな味付けで素晴らしい歌詞と曲の音楽をやるんだろうな…などと妄想する。
歪んだギターのストローク、ガシャリとした盛り上がるところはメジャーヴァージョンとニュアンスは近い。ギターの音色はキャラがやや異なる。歌詞やメロディの乗せ方が微妙にちがうところもある。曲の変化をたどることができて面白い。
余談だけど、くるりが喋りや選曲を担当するFRAG RADIO(2021〜2022年頃)の放送で、流通していない彼らの初期の曲がプレイされたのを私は聴いたことがある。タイトルを覚え損じてしまったのだけれど(この記事を見て知っている人がいたらぜひ教えてください)蛙の擬声語、“ゲゲゲー”みたいな声が収録されたそれはもうエキセントリック、至って奇抜な曲で、私は笑いとともに深く記憶に刻み込んだのだけれど、ああいった野趣や遊びに満ちたラジカルな音楽への態度が、インディー版の『東京』にはよく表れているなと思った。
くるりの初期の匂いはポップソングのひな型の外にマッピングしているものがある。そうやってくるりは型の内外から音楽を見ている感じがする。私がくるりを大好きな理由のひとつだと思う。
青沼詩郎
『東京』ほかを収録したくるりのベスト・アルバム『ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER』(2006)
『東京』を最初に収録したメジャー盤『さよならストレンジャー』(1999)
ご笑覧ください 拙演