前説

人工的に、歌を2回歌って重ねたみたいな効果を出す技術・ADT(Artificial Double Tracking)がジョンのリードボーカルに用いられているといいます。

録音技術の面でも奇天烈なのですが、幻覚剤と医療をテーマに共著されたという『チベット死者の書サイケデリック・バージョン』(原題:The Psychedelic Experience: A Manual Based on The Tibetan Book of the Dead、著:ティモシー・リアリー、ラルフ・メツナー、リチャード・アルパート)というのに作詞作曲の発想を得ているというから音の面でも中身の面でも飛距離がすごい……

Tomorrow Never Knows The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Revolver』(1966)に収録。

The Beatles Tomorrow Never Knows(アルバム『Revolver』収録)を聴く

Cの根音をひたすらに敷き続け、地平を表現か。ドラムがパターンを恒続させます。ドッ、タッド、ドッタタ! 鋭く射抜くようなキックとスネアに、ぼわんじょわんと猛々しくあばれ、狂い咲くようなハイハットの歯軋り。これだけでもずっと聴いていたい。

ベースも一緒になって恒久的な地平をドラムと協調します。分割の緩急がダイナミックです。スネアがタタ!と表現する細かさをベースも一緒になって表現している。オクターブをのぼったりおりたりしながら。

カモメがケーンケンヒィンヒインとなくみたいなサウンド。海辺の景色を思わせるので、遠く地平線を眺める気分にさせる一因です。かもめみたいですが、ポールの笑い声を加工したのだとか。私をあざ笑うみたいに私の頭の上をくるくると旋回します。

左に右に、定位を振り分けた音が私の頭の中まで攪拌します。ストリングス? ブラス? メロトロンを用いたサウンドが込められているようです。ジョージのギターのリバース(逆再生)も右にあらわれます。

一番のジョンのリードボーカルはADTという、2回歌って重ねたみたいなサウンドを人工的に表現する技術を導入した初期事例だだといいます。1番のボーカルは太さがあるのですが、2番はボーカルのサウンドが細くなる。ロータリー(レズリー)スピーカーを通して得た音色だそうです。ヒリヒリと歪み感、ちりちりとささくれ立つような独特の音色。ハンディスピーカー……メガホンを持って説法しているみたい。

とにかくもろもろのトラックのリバースが時間を逆行しているかのような神がかった陶酔感をくれます。おれはついに次元を越える道の途にあるのだ……!リスナーを全能感の海にびしゃびしゃに浸します。

エンディングでピアノがあらわれる。こってり聴きたかったがそれはまた来世のおたのしみに……といった具合にか、つかのまの時空トリップは唐突に現実に引き戻されるのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>トゥモロー・ネバー・ノウズ

参考歌詞サイト KKBOX>Tomorrow Never Knows

The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク

『Tomorrow Never Knows』を収録したThe Beatlesのアルバム『Revolver』(1966)

参考書

ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年) 

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】 録音アート‼︎ Tomorrow Never Knows(The Beatlesの曲)ピアノ弾き語り』)