Ⅰ→ⅢMの用例
「Ⅰ→ⅢMの用例」がどういうことかはこちらをご覧いただきたい(それでも説明が至らないかもしれないが)。
Ⅰはすなわち主和音。で、Ⅲはⅲ上につくった和音のことなのだけれど、その和音はふつうマイナーの和音になる。ハ長調でいえばⅲはミなので、ミのうえにつくる和音はミソシ。ミとソのあいだが短3度。ソとシのあいだは長3度。すなわちこれ、短3和音なのである。
そこで、短じゃなく長、すなわち最初のミとソの間隔が広くなるようにソに♯をつけてしまえばⅢMのできあがり。
でもⅢM(Ⅲ7)はソを上方変位させてできたというよりは、他の調から借りてきた属和音なのだ。他の調は何かと言えば、ハ長調にとってのⅥ度調、イ短調である。ドミソを主和音にしたときの属和音がソシレであるように、ラドミ(ドが♯でもいい)にとっての属和音はミソ♯シなのだ。このミソ♯シこそが、ハ長調におけるⅢMなのである。
和音の話になると長くなる私。冒頭にリンクした記事に集めたⅢMの用例は、平歌やサビなど、そのブロック(楽節?)の冒頭はⅠ(主和音)で、そこからⅢMに進行するという用法をとっている。
新沢としひこ・中川ひろたか『世界中のこどもたちが』
Ⅰ→ⅢMのはまりかた
ところがこちら(上リンク)をご覧いただきたい。この曲は、確かにⅠ→ⅢMの進行を含んでいるのだけれど、ⅠでAメロ部を終止させてから、Bメロ部の冒頭にⅢMが来るように用いている。
そのブロック(楽節?)の冒頭にくるコードというのは「顔」である。私も曲書きのはしくれだけれど、「その曲を構成するAメロやBメロやサビやCメロのアタマが何のコードではじまるか」には強い関心がある。あなたも曲書きなら関心があるだろう。もちろん曲書きじゃないあなたにだって関心を抱いてほしい。
コード進行の「順番」だけについていえば、どんな位置にそれがあてがわれていようがⅠ→ⅢMはⅠ→ⅢMだ。なのだけど、ハメ込む位置がずれるだけでこんなに違う印象をもたらすのだ。
多くの用例が平歌やサビの冒頭で
|Ⅰ → ⅢM(Ⅲ7) |
というハマりかた。
しかし『世界中のこどもたちが』のハマりかたは
(平歌)→ Ⅰ (平歌の終止)→|(サビの始まり)ⅢM
なのだ。「|」は小節線。おわかりいただけるだろうか。
新沢・中川作品
新沢としひこ・中川たかひろはクレヨンハウスの雑誌『クーヨン』の前身『月刊音楽広場』(1987—1996)で多くの作品を発表した。私のお気に入りは『にじ』『ともだちになるために』。『世界中のこどもたちが』は1988年1月号で発表。作曲年はその前年という。
この曲にたどり着いたいきさつ
教育芸術社の『歌はともだち』を愛用している。私が小学生のときに授業で使った歌本。それを今も私は開いて見て歌う。新版も改めて購入したくらいだ。それに『世界中のこどもたちが』が掲載されている。
小学生の時に使った版には『世界中のこどもたちが』はまだ載っていない。1986年生まれの私だが、年上の兄から譲り受けた古い版を使った。その版は1983年。『世界中のこどもたちが』誕生以前なのだ。そりゃ載っていないわけだ。
無意識に口ずさむ
先日、家で何気なくこの『世界中のこどもたちが』を私は口ずさんだ。無意識に出てきたのだ。そういう歌がいくつかある。私の記憶の浅瀬をぷかぷか浮いて漂っているようなのだ。潮目なのか、風が吹いたのか、自分の意志とは関係なく岸辺に寄ってきて視界に入ることがある。そんな歌、あなたにもあるのでは。
歌は空と海をつなぐ
曲についてほかの細かいこと
トリプレットのマーチ調が元気な印象。歌い出し「せかいじゅうー」が順次進行なのに対して、「そらも」や「ラララ」は同音連打。この「ラララ」は重要。「そら」と「うみ」をつなぐのが「ラララ」であり、「ラララ」とはすなわち「歌」である。歌は空と海をつなぐのだ。
Bメロの終結部でメロディは上行。Aメロに戻るときに、1オクターブ下の同音につながる。仕切り直しているのに、ちゃんとつながっているのだ。
青沼詩郎
『世界中のこどもたちが』を収録したCD『新しい子どもたちの歌 1 世界中のこどもたちが』(トラや帽子店+新沢としひこ)
ご笑覧ください 拙演
青沼詩郎Facebookより
“新沢としひこ・中川ひろたか作品。数あるレパートリーはクレヨンハウス『月刊音楽広場』で発表。『世界中のこどもたちが』は1988年1月号掲載。
マーチ調、トリプレットのハネ。
Bパートの冒頭がⅢM(Ⅵ調のⅤ)なのがすごくいい。
ポップやロックでⅠ→ⅢMの進行は数多見てきた。
でもそのほとんどが、冒頭をⅠで始めたのちにⅢMに進行するもの。
Bパートの冒頭からいきなりⅢMという例は、私は他の例を知らない。
その前も含めて見ると、AパートをⅠで全終止したのちにBパートをⅢMで始めるという流れ。Ⅰ→ⅢMには変わりないのに、ずれてハマっているだけでこんなに違った印象を与えるなんて。ああ、音楽おもしろい。音楽、おもしろい。”
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