ウルフルズの『笑えれば』の発表がいつだったか…公式サイトを見てみる。シングルのリリースが2002年2月20日。……と、気になった。公式サイトを見るに、映像作品『OSAKA ウルフルカーニバル ウルフルズがやって来る ヤッサ!ヤッサ!ヤッサッサ!』、『ULFULS LIVE TOUR 2002 ツーツーウラウラ』をリリースしたのも同じ年月日になっている。新曲シングルと映像を2タイトルも同時期に出すとは、すごい活発。

私が高校への入学を目前にした中学3年生だったとき。推薦で合格を早めにいただけて、人生ではじめて「プレステのある生活」を謳歌していた。『ファイナル・ファンタジーⅦ』をアホみたにプレイした。

4月を迎えて高校生になった。そこで早速出会った人がいる。頭を真っ白にブリーチして革ジャンを羽織った軽音楽同好会の先輩。風貌がクレイジーだった。私を一目見たその先輩、言う。「お前、何か(楽器)やってるだろ?!」私「ハイ、ギターとかやってます」。軽音楽同好会の活動場所、通称「軽音部室」へ連れて行かれて、私は人生を踏み外し(?)はじめることになる……いや、これこそが私にとっての正道なのだけれど。

ウルフルズ笑えれば』は、そんなふうにして軽音楽同好会でバンド活動をやっているかたわらで知った曲だった。その頃すでに『バンザイ~好きでよかった~』(1996年2月7日にシングル発売)は私や部員(正確には同好会だから会員)の間の定番ソングだった。

曲の存在を知ったのは高校のときだったけど、それから幅のある時間に渡って、たびたび『笑えれば』に感じ入る瞬間があった。特別な機会に聴くでもなく、ただ家や移動中なんかにイヤホンで1人で聴いては、じんわりした。死ぬまでにライブで一度は聴いてみたい。

私がYouTubeを使うようになるのはこの時期よりもずっと後年で、いまでこそ「こんなMVだったんだ」と知って驚くことがしばしばあるが、それでもまだ自分の知っている曲のMVがいかなるものかを知らずにいるものが圧倒的に多い。

YouTube以前に私がMVにふれるチャンスといえば、9割がテレビCMだった。見られても15秒くらいしか見れない。MVにかかる人手や時間やお金は大きいだろうに、当時の私程度の音楽感度の持ち主には、せいぜいテレビCMで15秒ほど映像を視聴してもらえるかどうかのみだったなんて、なんか作品がもったいないのではないかとYouTubeを頻繁に使うようになった今では思う。

いや、それでも曲の存在を知ってもらえるだけで最低限、あるいは絶大な役割を十分果たしていたのかもしれない。MVという表現もまだ一般的でなかった気がする。PV。プロモーションビデオと呼ぶ場合がほどんどだったと思う。つまり、映像で作品の表現を達成するというよりも、周知・販促に目的の比重のほとんどがあった(後にMVと呼ばれるようになる時代と比べて)……のかもしれない(業界に疎いから知らんけど)。

いまは、かつてほど多くの人が長時間テレビを見なくなったというのが私の無根拠な実感。

同時に、日常的にYouTubeを頻繁に見る私のような人間も、総人口に対しては明らかにマイノリティだろう。多くの人は生活の中でたまに見ればいいほう。何か特別に、調べたり知る必要があるものがあったときにだけたまに見る、もしくはまったく見ないという人がほとんどなのではないか。もちろん、世代によって偏りがあるだろう。YouTubeよりTikTokとかインスタをよく利用する人もいる。

話を『笑えれば』MVに戻す。地元の仲間風の男2人女1人の三角関係が脚本になっている様子。メンバー演じる登場人物たち。女性役を演じるのは、はな。劇中で結婚する2人。残された男1人と歌詞の“とにかく笑えれば 最後に笑えれば”(ウルフルズ『笑えれば』より。作詞・トータス松本)が重なって切なくなる。誰と誰がくっついて幸せになろうと、とにかく最後に笑えればいい。

トータス松本が歌う様子が物語のシーンと交互に映される。彼も「男」の肩を叩くシーンで一瞬物語のほうに出てくるけれど、基本物語の内容にはほぼタッチしない。劇中の存在とメタな存在の中間的なところにいて、歌の世界(MVの物語)と私をつないでくれる。

ギターソロをはさむCメロ

きれいなコード進行。低音を、階段を一段ずつ降りて行くように(順次下行)滑らかにつないでアコースティック・ギターでコピーして弾くことができる。メロもサビもおおむね同形。この安定のコード進行で、歌詞にドラマ。自省的でもある。諦観もどこか漂う。無情と人情が交り、匂い立つ。理想と現実がせめぎあうCメロ。

ギターソロをそのCメロが挟み込む(つまり、Cメロ→ギターソロ→Cメロの順。Cメロが2度登場する)。この構成はあまり出会ったことがない。どこかで耳にしているかもしれないが、最近分析的に曲をみていく活動をしていてはっきりこの構成を認知したのはこの曲が初めてだ。なるほど、こういうつくりもあるのか。ソングライティングの工夫が光る。

1988年結成、1992年シングル『やぶれかぶれ』でデビューのウルフルズ。2020年までで見ると、『笑えれば』は中期にさしかかる頃の作といえる。魂の熱さは常に揺るがない彼ら。ブルースやロックに根ざした感じの歌の態度。歌詞に人間のおかしみ。ウルフルズの素敵な要素を私のへたな筆でつづるとそんな感じ。それらを真ん中に含みつつ、そのときの一番新鮮な心を誠実に表現しているのがこの『笑えれば』だと思う。

この曲に感じ入った時間の幅を、また更新した今日。いい曲だなぁ。

青沼詩郎

ウルフルズ 公式サイトへのリンク

『笑えれば』を収録したアルバム『ウルフルズ』(2002)

『笑えれば』を収録したアルバム『ベストやねん』(2007年2月21日発売)

ご笑覧ください 拙演